大学DXとは何か。-進まない4つの壁と、業務の整理から始める進め方-
大学DXを検討する際は、導入するシステムだけでなく、業務の進め方やデータの活用方法も整理することが大切です。本記事では、業務を分解し、必要な手順や項目を標準化したうえで、改善に使うデータを継続して記録する進め方を提案します。
本記事は、大学の情報システム部門、DX推進担当、教務や学生支援の職員の方に向けた入門記事です。「DXと言われても何から手を付けるべきか分からない」という状況を整理するために、考え方と実務上の手順を紹介します。
大学DXとは何か
本記事では、大学DXを、デジタル技術やデータを活用して、教学・業務・経営の進め方を見直し、教育や学生支援の充実、大学運営の改善につなげる取り組みとして捉えます。これは、本記事の対象範囲を示すための整理です。
紙をPDFにする、申請をオンライン化するといったデジタル化も、改善の一歩になります。その際は、作業時間や利用者の負担がどう変わるか、得られたデータをどのように活用するかまで検討すると、取り組みの目的を明確にできます。
対象となる3つの領域
- 教学:授業、履修、成績、出欠、学修支援、学生支援など、教育と学生の学びに関わる領域です。
- 業務:入試、教務、学生サービス、人事、財務、総務など、大学運営を支える業務の領域です。
- 経営:大学の方針や目標に照らし、データを用いて計画や資源配分などを検討する領域です。
この3つは重なり合います。例えば、学生支援の記録は、日々の対応を引き継ぐためにも、支援方法や体制を見直すためにも活用できます。データを記録する目的と利用範囲を整理すると、関係部署との役割分担を検討しやすくなります。
教育DXとの違い
本記事では「教育DX」を、授業や学修など教育活動に焦点を当てた言葉として扱い、「大学DX」は事務業務や経営も含む言葉として扱います。
「教育DX」や「大学DX」といった言葉の対象範囲は一様とは限らないため、議論の場では、どこまでを指して使っているのかを確かめておくと安心です。学内で議論するときは、対象となる活動や業務、目指す変化を最初に共有してください。
大学DXを進める際に確認したい4つの壁
本記事では、取り組みを進める際の確認事項を、業務・データ・人・予算の4つに分けて整理します。すべての大学に共通する原因と断定するものではありません。自学で当てはまる点を確認するための視点として活用してください。
1. 業務の壁:手順や役割が共有されているか
- 担当者ごとの手順の違いを把握できているか。
- 例外対応や判断のルールが、関係者に共有されているか。
- 各作業の担当、所要時間、引き継ぎ先を確認できるか。
手順に違いがある場合は、統一できる部分と、業務上の理由から分ける必要がある部分を整理します。システムの要件を検討する際にも、この整理を活用できます。
2. データの壁:必要な情報を利用できるか
- 必要なデータが、どの部署やシステムにあるか分かるか。
- 同じ名称の項目について、定義や入力ルールが揃っているか。
- 改善の判断に必要な情報が記録されているか。
- 利用目的に応じたアクセス権限や共有方法が決まっているか。
部署ごとに管理されていても、目的に応じてデータを確認できれば、分析や改善を進められる場合があります。一括管理を前提にせず、必要な情報と利用方法から検討してください。
3. 人の壁:改善に取り組む時間と役割を確保できるか
- 業務整理や試行に必要な時間を確保できるか。
- 推進担当と現場の担当者の役割が明確になっているか。
- 取り組みの目的と、現場への影響が共有されているか。
- 運用開始後の問い合わせや手順変更を誰が担うか。
現場の負担を確認しながら、対象業務や試行期間を絞る方法が考えられます。新たな記録作業を追加する場合は、その必要性と作業量も検討してください。
4. 予算の壁:費用と効果を説明できるか
- 現在の処理件数、作業時間、差し戻しなどを把握できるか。
- 導入費用に加え、運用・保守・研修などの継続費用を確認できるか。
- 削減したい負担と、向上させたいサービスや教育上の価値が明確か。
- 試行から本格運用までの計画を、予算編成の時期に合わせて検討できるか。
効果を検討する際は、作業時間の削減だけでなく、利用者の使いやすさ、対応の正確さ、情報の把握しやすさなども確認対象にできます。どの変化を評価するかを事前に決めておくと、試行結果を説明しやすくなります。
なぜ業務整理から始める方法があるのか
業務整理は、手順や担当、利用するデータを共有するための方法です。何を改善するかが明確になっていない場合には、現状を書き出すことで、見直す箇所や必要な情報を検討しやすくなります。
本記事では、次の流れを出発点として提案します。
- 業務を分解して、手順と担当を見える形にする。
- 共通化できる手順や用語を整理する。
- 改善に必要なデータの記録方法を決める。
- 一定期間試し、結果を確認して見直す。
システムやツールの導入は、業務整理と並行して検討することもできます。自学の課題や既存環境に合わせて、手順の見直しと技術の活用を組み合わせてください。
業務整理の進め方
対象を広げすぎず、困りごとが明確な一つの業務で試す方法を紹介します。
ステップ1:対象と目的を決める
問い合わせが多い、繁忙期に負荷が集中する、差し戻しが多いなど、課題を確認できる業務を選びます。「処理時間を短くする」「再入力を減らす」「対応状況を共有する」など、試行で確かめたい目的も決めてください。
ステップ2:業務を分解して書き出す
「誰が・いつ・何を・どのツールで」行うかを、作業単位で書き出します。最初は概要をまとめ、関係者に確認しながら、判断が必要な箇所や例外対応を追加します。
ステップ3:負荷とばらつきを確認する
- 各作業の処理件数と所要時間。
- 担当者による手順の違いと、その理由。
- 差し戻し、再入力、待ち時間が発生する箇所。
- 利用者や担当者が困っている点。
概算から始める場合は、推計であることと算出条件を記録してください。試行前後を比べる際は、対象期間や件数などの条件も確認します。
ステップ4:見直しの候補を決める
省略できる作業、まとめられる作業、手順を揃えられる作業を検討します。法令や学内規程、教育上の配慮などによって必要な対応もあるため、変更の可否を関係部署と確認してください。
例えば、同じ内容を複数の帳票に入力している場合は、各帳票の目的を確認したうえで、転記の削減や情報の共有方法を検討できます。
ステップ5:データの残し方を決める
件数、処理時間、問い合わせの分類、差し戻し理由など、目的に合う項目を選びます。記録する担当、時期、保存先、閲覧できる範囲を決め、日常業務の負担も確認してください。
既存のシステムで取得できる情報があれば活用を検討します。新しく記録する項目は、改善に必要な範囲に絞ります。
ステップ6:小さく試し、振り返る
対象と期間を決めて試行し、作業負担や利用者への影響を確認します。想定どおりに進まなかった点や例外対応も記録し、手順を修正してください。
他の業務に広げる際は、試行で得られた結果に加え、業務の違い、必要な人員、運用費用も確認します。
個人情報・機密情報の扱いについて
学生や教職員の個人情報、成績、入試に関する情報などを扱う際は、学内の情報管理規程に沿って、利用目的、アクセス権限、保存先、保存期間を確認してください。
業務の手順を整理する段階では、実データの代わりに、項目名や架空の例を使う方法があります。件数の集計値や業務手順についても、内容によっては機密情報に当たるため、共有範囲を確認します。
クラウドサービスやAIサービスを利用する場合は、入力する情報、サービスの利用条件、学内の承認手続きを確認し、認められた方法で運用してください。
他大学の進め方を参考にするには
他大学の事例を確認するときは、導入した製品だけでなく、取り組みの目的と運用方法にも注目してください。
- どの課題に対して、どの業務から着手したか。
- 開始前の状況を、どのように把握したか。
- 現場の担当者と推進担当が、どのように役割を分担したか。
- 何を記録し、どのように効果を確認したか。
- 試行後に残った課題や、継続運用の条件は何か。
文部科学省や各大学の公式な発表資料など、発信元と公開時期を確認できる情報を参照してください。大学の規模、組織体制、既存システムなどが自学とどう異なるかも確認すると、取り入れられる部分を検討しやすくなります。
まとめ
- 本記事では、大学DXを、デジタル技術やデータを活用して教学・業務・経営の進め方を見直す取り組みとして整理しました。
- 取り組みを検討する際は、業務・データ・人・予算の4つの視点から、自学の状況を確認できます。
- 改善対象が明確でない場合は、業務を分解し、手順や担当、必要なデータを整理する方法があります。
- 対象と目的を絞って試行し、結果を確認しながら、手順の見直しやシステムの活用を検討してください。
次の一歩として、一つの業務について「手順」「担当」「使用する情報」「困っている点」を書き出してみてください。関係者と共有し、見直したい箇所と試行で確認する項目を決めるところから始められます。